コラム

心拡大と心肥大
―発見のはじまりは、胸部レントゲンや心電図から―

2012.06.01

循環器科内科 准講師 渡邉 絵里

 健康診断や人間ドックの検査結果で、胸部レントゲンや心電図の所見で“心拡大”、“心肥大の疑い”、“精密検査が必要です。循環器内科を受診して下さい”などと書かれて、心配されて外来にいらっしゃる患者さんに、よくお会いします。“言葉の意味はよくわからないけれど、心臓が悪いみたいだから、とにかく来ました”という方が多いので、今回は心拡大、心肥大のお話を少ししてみようと思います。

 まず、心拡大と心肥大という言葉、よく混同されて使われているのですが、実は意味が大分違います。心拡大というのは、心臓の内径、内腔の大きさが大きいことをいいます。イメージとしては、膨らんだ風船です。心臓は4つの部屋から構成され、左に2つ、右に2つ部屋があり、上の部屋を心房、下の部屋を心室といいます (図1)。いずれかの部屋が大きくなると、胸部レントゲン写真で心臓が通常より大きくみえてきます。正面から撮った胸部レントゲンで胸郭と心臓の幅を比較し、これを“心胸郭比”といいますが、50%以上、つまり心臓が胸の大きさの半分以上だと心拡大といわれるのです (図2)。ただ心臓が横向きになっていたり、rotationがかかったり、深呼吸が十分できていないと正常であっても、大きくみえてしまうことがあり、本当に心臓の内径が大きいかどうかは、心臓超音波検査をして確認します。心臓超音波では、部屋の大きさ、形、動きがみえ、簡便で痛みも被爆もない検査ですから、必須の検査と考えられます。

 一方、心肥大とは、心臓の筋肉の壁が肥厚し、分厚くなっている状態をいいます (図3)。厚いビフテキのイメージです。肥大は4つの部屋のどこでも起こりえますが、多くが左心室(左室肥大)、次いで右心室 (右室肥大)に生じ、心房の頻度は非常に少ないです。左室肥大になると、心臓の収縮力が強まり、心臓からの起電力が大きくなるため、心電図で特有の変化がおこります。健診では、心電図基準に従い判定しています。当センターの健診で、左室高電位と表記する場合がありますが、これは心電図で左室からの起電力が高いものの、肥大の基準を完全にはみたさないケースです。左室肥大が否定できず、左室の拡大も否定できませんので、やはり一度心臓超音波検査をうけるようにお勧めしています。

 さて、左室肥大の原因で最も頻度が多いのは、高血圧で、その他、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などがあります。左室肥大が進行すると、心筋の壁が徐々に厚くなり、筋肉が線維に置き換わることにより、収縮力が徐々に低下して、心不全を生じます。心不全を起こす前に、治療をすることが大切で、原因によって治療方法や薬の選択が変わります。原因を探すためには、先にあげた心臓超音波検査が有用ですが、肺の病気があったり、肥満であったり、心臓の先端のみの肥大など、超音波検査で心臓の形態がよく見えない場合には、心臓MRI*を行うことにより、診断がつくことがあります。

 胸部レントゲンや心電図は心臓病を発見する最初のステップです。健診などで異常といわれたら、本当に病気があるのか、早めに循環器内科を受診して、検査で確認しましょう。症状がなくても病気が隠れている可能性はあるのですから。早期発見が心臓病でも治療の第一歩、大きなイベントの予防の一歩でもあるのです。

*心臓MRI検査は当センターではなく、関連施設の東京女子医大附属青山病院(外苑前)で行っています。