Renal transplanation
腎移植とは腎臓の機能が低下した人のために、新しい腎臓を手術で移植することによって腎臓の機能を回復させる治療法です。
腎機能が低下した場合の治療法には、透析療法と腎移植があります。透析療法には大きく分けて血液透析と腹膜透析がありますが、いずれも時間的制約が大きいことと腎臓の一部分の役割しか果たさないことが問題になっています。一方、腎移植を行うと、失われた腎臓の機能はほぼ完全に回復し、時間に縛られることもありませんし、食事も自由に食べられます。
腎移植には、亡くなった方からいただく献腎移植とご家族からいただく生体腎移植があります。
腎臓を提供できる方はご家族の方(夫婦間も含む)で自らの意思で腎臓の提供を希望されている方になります。腎臓を片側提供するので腎臓の機能が正常であることはもちろん、健康体であることが必要になります。
日本移植学会の倫理指針では、生体移植では、親族からの提供に限るとされており、親族とは、6親等以内の血族、3親等以内の姻族と定義されています。
献腎移植とは、亡くなられた方から腎臓を提供していただく移植のことです。献腎移植には心臓死からの移植と脳死からの移植があります。献腎移植を希望される場合、日本臓器移植ネットワーク(JOTNW)にあらかじめ登録する必要があります。腎臓の提供者が出た場合、登録されている方の中から選択基準に従って候補者が選ばれ、腎臓が移植されます。献腎移植は生体腎移植と比べ、生着率(移植した腎臓が長持ちする度合い)がやや悪いのですが、これまでの経験から十分良好な腎機能を発現することがわかっています。
献腎移植登録を希望される方は、かかりつけ病院の紹介状を持参のうえ、移植外来を受診していただきます。診察の上、腎移植を受けていただくにあたり、問題がないと判断された場合、組織適合性検査として、採血を行い、血液型とHLA(白血球の血液型)を調べます。また移植コーディネーターより腎移植に関する詳しい説明をさせていただきます。費用は、組織適合性検査が、37,800円、JOTNWへの登録料として初回は30,000円、1年毎の更新料が5,000円となっています。居住地区の自治体により、補助金が出る場合があります。
腎臓提供される方(ドナー)が出た場合は、臓器移植ネットワークで提供者の血液型、HLAが調べられます。ネットワークに登録されているデータベースの中から、待機時間、搬送時間、血液型とHLAとの適合度などの選択基準に従い、移植候補者が選ばれます。この時点で移植施設より移植を受ける意思があるかどうか確認の連絡が入ります。入院後、速やかに手術となりますので、ご自身の体調などを考慮して返事をしてください。
腎移植を受けることを了承された方は、速やかに入院していただくことになります。腎臓が摘出されてから移植されるまでの時間は短いほうが腎臓へのダメージが少ないので、できるだけ早く手術します。病院に着いたら、これまでの透析状況や合併症の状況を教えていただき、診察と採血、レントゲン、心電図などの検査をさせていただきます。腎移植の手術の前に、必要があれば、血液透析を行います。移植手術の時間は約3時間ぐらいです。献腎移植の場合、移植後すぐに尿が出る場合もありますが、多くの場合は腎機能が回復するのに時間を要します。その間は血液透析を行うこともあります。通常は約2?3週間程度で退院し、外来通院となります。
透析療法と比べ腎臓の機能を代行するという意味では腎移植がはるかに優れていますが、腎移植の最大の問題点は腎臓の提供者が少ないということです。
腎移植では通常、月に1度の通院ですみますが、血液透析の場合、週に3回透析病院に通院しなければいけません。1月にすると50時間以上を透析病院で過ごさなければいけないことになります。学業や仕事がある場合、透析は大きな障害になります。
腎移植の場合、食事に関しては一般にいわれている健康的な食事(低塩、低脂肪)であれば特に制限はありません。一方、透析療法の場合、カリウム、リン、塩分などの厳しい制限が必要になります。特にカリウム(果物、生野菜に多く含まれる)を多く取ってしまうと、血液中のカリウム濃度が上昇し、不整脈がおこりときには心臓が止まってしまうことさえあります。
腎移植を受けた患者さんが最初に受ける印象は味覚が改善され食事がとてもおいしく感じることだそうです。これは透析中は口の中がねばねばし尿毒素により味覚が低下していたのが移植によって改善されるためです。
腎移植では制限ありませんが、透析療法では尿が出ないため1日500~700mlの飲水に制限されています。
腎移植のほうが透析療法より長生きできることがわかっています。最近、東京女子医大で腎移植を受けられたすべての患者さんの5年生存率(移植してから5年以上、生存している割合)は98%であるのに対し、透析患者さんの5年生存率は60%でした。
長期の透析に伴い、様々な合併症が出現するのに対し、腎移植では透析に伴う合併症の多くは改善します。
小児期から透析療法を行っていると尿毒症のため正常な成長は望めません。それに対し腎移植ではお子さんの成長に対して阻害しません。腎不全のお子さんに対しては、発育を考慮し、適切な時期に腎移植を行ってあげることが必要です。
透析、腎移植ともに医療費はそのほとんどが公費で賄われており、患者さんの自己負担には大きな違いはありません。しかし実際に要する金額は、透析療法ではおおよそ月額40~50万円、腎移植では月額15万円です。医療経済的にも腎移植は優れています。