頚動脈狭窄症
担当医
川俣 貴一(教授?基幹分野長)
頚動脈狭窄症とは
頚動脈狭窄症とは、頚動脈に動脈硬化性粥状変化(プラーク)が形成され、局所で細くなっている状態(狭窄)です。狭窄の進行による脳血流低下や、狭窄部からの塞栓物質により、脳梗塞を引き起こすことが知られています。頚動脈狭窄症の分類には、症候性と無症候性があります。頚動脈狭窄症が原因で既に脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)を生じた場合を症候性、生じていない場合を無症候性と呼んでいます。頚動脈狭窄症に対する治療は、第一に脂質異常症改善薬や抗血小板薬を含む内科的治療が選択されます。
頚動脈狭窄症のエビデンス
症候性頚動脈狭窄症では、狭窄率が50%を越えた場合、内服薬による内科的治療に加えて外科手術(頚動脈内膜剥離術:CEA)を行う方が、内科的治療のみの場合より脳梗塞再発予防効果が優れているとされています。また、無症候性頚動脈狭窄症でも、狭窄率が60%以上の場合、内服薬による内科的治療に加えて外科手術(頚動脈内膜剥離術)を行う方が、やはり脳梗塞予防効果が優れているとされています。また、近年では、血管内手術(頚動脈ステント留置術:CAS)も、外科手術(頚動脈内膜剥離術:CEA)と同様に効果的であるとされています。
頚動脈狭窄症の検査
頚動脈狭窄症の検査として、①頚動脈エコー、②MRI?MRアンギオグラフィー、③三次元CTアンギオグラフィー、④脳血管撮影等を適宜使用し、脳血流の評価としてゼノンCTを行っています。主な術前検査には三次元CTアンギオグラフィーを使用しており、極力侵襲的な検査を控えています。また、原則として、治療を受ける方には心臓の精密検査も出来る限り受けて頂き、安全に治療を完遂することを目指しています。
頚動脈三次元CTアンギオグラフィー
ゼノンCT
頚動脈内膜剥離術
外科手術(頚動脈内膜剥離術)では全例にSEP(体性感覚誘発電位)、MEP(運動誘発電位)と呼ばれるモニタリングや術中の血流測定等を行い、術中にはシャントと呼ばれる側副血行路を作成することで、頚動脈の血流を維持しながら手術を行う方針としており、安全性と確実性の両立を目指しています。また、当科オリジナルの開創器の利用など、様々な工夫を行っています。術直後には脳血流評価を行い、血流改善による流れ過ぎ(過灌流症候群)を予防しています。
術中所見
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シャント
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オリジナル開創器
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A: 露出された右頚動脈分岐部
B: 頚動脈切開後に剥離されるプラーク
C: プラーク摘出後に狭窄解除された血管の内腔
D: 摘出されたプラーク(広範囲な壁内出血を認める)
頚動脈ステント留置術
頚動脈狭窄症に対する頚動脈ステント留置術は、頚動脈内膜剥離術と同等の治療効果を得られることが知られています。当院では、全身麻酔による負担軽減の観点から、局所麻酔で治療を行っています。治療は、全身麻酔にも対応できるハイパースコット手術室を使用しており、全身麻酔での対応も可能です。バルーンやフィルター(FilterWire, Spider)による遠位塞栓防止器材や近位部の塞栓防止器材(Mo.Ma Ultra)の選択、様々なステント(Precise, Protege, Wallstent, Casper)の選択が可能です。当院では、遠位塞栓防止機材として、血流遮断を必要としないフィルターを主に使用しており、近赤外分光法で血中の酸素化や脳血流の変化をモニタリングしております。脳神経内科と協力体制を構築しており、全身的な治療を行うことを心がけています。
頚動脈ステント留置術
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A:治療前、右内頚動脈に著明な狭窄を認める
B:治療後、ステント留置により内頚動脈が良好に拡張している
C:治療に使用したステント
D:治療後に確認されたプラーク
当院の方針
頚動脈狭窄症の治療として外科手術(頚動脈内膜剥離術)及び血管内手術(頚動脈ステント留置術)の両方が選択可能です。 現在、頚動脈病変に関しては、経過観察と外科手術、血管内手術の間で合理的選択方法は得られていません。 当院では頚動脈内膜剥離術と頚動脈ステント留置術を、狭窄の部位、プラークの状態、石灰化の状態に合わせて選択しており、 外科手術と血管内手術を合わせて年間約50~60例の治療を行っています。 また、腎機能や心機能の悪い方、重症糖尿病の方などでも適切な準備を行った上で治療を行っています。
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