伊藤淳哉(いとうじゅんや)

スポーツ障害として知られる靱帯断裂や半月板断裂について説明します。(伊藤淳哉)

靱帯再建

①十字靱帯損傷の病態と治療方法など

十字靱帯は膝の中央部に位置し、脛骨および大腿骨ずれとねじれを制動する重要な働きを持っています。主にスポーツ時の切り返し動作や着地の動作、あるいは相手との衝突などで損傷します。十字靱帯は自然治癒能力が低く、50%を越える損傷を受けるとほとんどの場合は断端が退縮して十字靭帯不全膝といわれる不安定膝になります。こうなるとスポーツ活動に支障をきたし、放置してスポーツ活動を継続すると早期に二次性変形性膝関節症になり、もっとも厄介なスポーツ障害のひとつとして知られています。

十字靱帯再建手術の目的は、膝の不安定性を軽減させることです。日常生活でも膝の不安定性の強い方や、スポーツ継続希望の方は再建術で正常な膝関節機能を再獲得してスポーツ復帰されることをお勧めしています。損傷した靱帯を縫合しても安定した成績を得ることが難しく、腱を移植する靱帯再建術が一般的です。その靭帯再建手術には様々な方法がありますが、当科では移植腱として、ハムストリング、また骨付き膝蓋腱を用いています。手術の実際ですが、移植腱を本来の靭帯の走行に近くなるようにあらかじめ作製した骨の孔に通します。そして、移植腱を大腿骨側と脛骨側でそれぞれ固定して、十字靱帯を再建します。これらの操作は関節鏡という内視鏡を用いて行うため、傷は小さく、術後の回復も早いです。

リハビリテーションについて

再建された靭帯は徐々に成熟して本物の靭帯に近い状態になります。完全に成熟するまでに2年ほどかかると考えられています。十字靭帯手術においてリハビリは非常に重要です。十字靭帯損傷では受傷早期から下肢の筋萎縮、筋力低下がみられることが多いため術前からリハビリを行い、手術までに関節の動く範囲を正常な状態に戻し、また筋力を少しでも正常に近い状態に戻しておくことが必要です。もちろん術後にもリハビリを行い、定期的に筋力評価をして、筋力の回復状態を確認し、時期に応じて強度を調整したトレーニングを行います。最終的にそれぞれのスポーツに必要な膝の安定性、俊敏性、持久性などを高めるトレーニングを行い、術後10カ月から1年での競技復帰を目指します。

②膝蓋骨脱臼の病態と治療方法など

膝のお皿として知られる膝蓋骨が、ジャンプの着地動作などで外れることを膝蓋骨脱臼と呼びます。自然と整復されることもありますが、整復が難しい場合は病院での整復が必要とされます。膝蓋骨脱臼の原因は様々あり、それらに対する手術の適応は大きく分けて下記の3つがあります。1)反復性脱臼で日常生活に影響を及ぼす2)初回脱臼だが、解剖学的な脱臼素因がある3)脱臼時に大きめの骨折を合併している、というような場合は、手術治療を勧めます。手術の方法に関して、当科では様々な手法を用いて行っておりますので、ぜひご相談ください。

最も一般的な手術方法のひとつに、内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術があります。このMPFLとよばれる靱帯は、膝蓋骨の内側から大腿骨の内側に向かって走っていて、膝蓋骨を制動して安定性をつかさどる『手綱』のような働きをしています。MPFLは膝蓋骨脱臼によって断裂、弛緩することが知られ、膝蓋骨内側の安定化機構の中で最も強度が高く、内側の50-60%の制動性を担っているといわれます。初回脱臼から時間が経過したものは、MPFLを直接縫合することができないため、腱を移植する靱帯再建術が一般的です。材料は自分の膝屈筋腱(ハムストリングス)を使用します。採取したハムストリングスを束ねて靭帯に作り変えます。膝蓋骨と大腿骨に直径5mm前後の小さな孔を開けて作製した靭帯をその孔に通してもとのMPFLの走行位置を再現するようにします。膝蓋骨脱臼の原因に大腿骨や脛骨の捻れや曲がりの異常がある場合は、骨の矯正を加えることもあります。

半月板断裂

③半月板断裂の病態と治療方針

半月板は大腿骨と脛骨との間に介在して衝撃の吸収、荷重の分散機能を担っています。半月板は線維軟骨という軟骨で出来ており、膝の内と外側に一枚ずつ存在し、真ん中が抜けた馬蹄形をしています。半月板は外周以外に血流を持たないため、自己治癒能力が非常に乏しい組織です。

半月板損傷の症状としては膝の曲げ伸ばしの際の引っかかる感じ、動作時の痛み、膝の腫れなどです。半月板の損傷形態や損傷部位によって手術方法やリハビリのやり方が異なります。

受傷後時間経過が短く、血流が良い場所での断裂ならば縫合術の成績も良いですが、断裂後時間が経過し、変性に陥った半月板は縫合しても癒合しないため、縫合後に再断裂して引っかかり、痛みの再発の原因となるので切除を余儀なくされることもあります。しかし半月板を温存した場合と比較して、半月板切除後は数年以上経過すると変形性膝関節症に進行する可能性が高くなります。よって、当科では、比較的年齢の若い活動性の高い方で縫合による治癒が見込める部位の損傷では半月縫合術を積極的に試みて、半月機能温存を目指します。また、半月板損傷にO脚変形が合併している場合は、O脚矯正骨切り術を行うこともあります。