がんゲノム医療
がんゲノム医療とは
がんゲノム医療とは、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ(がん遺伝子パネル検査)、その遺伝子の変異を明らかにすることにより、一人一人のがんの性質に合わせた治療などを行う医療です。
ゲノムとは、細胞の核のなかの染色体に含まれるすべての遺伝子と遺伝情報のことをいいます。染色体を構成する需要な成分はDNAと呼ばれ、このDNAは4種類の「塩基」という分子の配列によって構成されています。このDNAの配列は同じ個体では基本的に体中のすべての正常細胞で同じ配列を持っています。しかし、がん細胞のなかでは、正常細胞とは違った配列が生じていることがあり、これを遺伝子変異と呼びます。この遺伝子変異のなかには、がんを引き起こす変異や、がんを抑制する機能を失活させてしまう変異などが存在しています。このようながん化の過程に直接的に関わっている変異をドライバー変異と呼びます。
ドライバー変異が明らかになっているがんには、そのドライバー遺伝子を阻害する分子標的薬剤(細胞のなかの特定の分子を攻撃する薬剤)を用いることでがんの増殖を抑え、著明な効果を上げることができる可能性があります。このような薬剤は通常その変異を持っていない人には全く効果を示しませんので、その変異を持つ人だけを選択して投与する必要があります。このような変異はそれぞれ頻度が異なり、わずか数%から1%未満の患者にしか存在しないものもあります。このような変異を沢山検索して、効果のある薬剤に到達する可能性を増やすためにはたくさんの遺伝子変異を同時に測定できる技術が必要です。近年の技術の進歩によりがん遺伝子パネル検査が開発され、数百個の遺伝子の同時測定が可能となりました。
がん遺伝子パネル検査の実施体制
がん遺伝子パネル検査は2019年より保険承認されていますが、一般的ながん腫の場合保険では標準的な化学療法治療が終了した患者さんのみが適応となっています。本来であればもっと早い時期にこのようなゲノム情報を知ることで治療の組み立てがしやすくなるのですが、現時点では保険での検査には制限があります。当科では保険診療および自費診療によるがん遺伝子パネル検査を、当院の遺伝子医療センター(/IMG/)や東京女子医科大学東医療センター(https://twmu-mce.jp/)と連携して実施しています。
がん遺伝子パネルと遺伝情報
がん遺伝子パネル検査によって、治療に必要な情報以外に、その人の遺伝的素因、とくに生まれ持った体質としてがんになりやすい遺伝子変化が発見されることがまれにあります。このような生まれ持った遺伝子変化には遺伝的に引き継がれるものもあることから、その結果を知ることは本人だけでなく血縁者にも影響を与える可能性があります。一方で、そのような体質であることを、血縁者も含め早めに知ることにより、定期的な検査を必要な部位にしっかり行うことで、がんができても早期発見につなげられるメリットもあります。このような遺伝に関わる情報はとても繊細な問題であり、患者さんに正しい知識を、心理的影響および家族への影響を十分理解したうえで提供していくためには専門的な体制が必要になります。当院の遺伝子医療センター(/IMG/)では専門の知識と経験をもった有資格の遺伝専門医や認定カウンセラーが在籍しており、遺伝カウンセリングが必要な患者さんに適切に対応できる体制を整えています。
上記をご理解のうえ、当院で治療を受けている患者さんで遺伝子パネル検査をご希望のかたは担当医とご相談ください。