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当科の診療基本方針

化学療法?緩和ケア科とは

当科は化学療法と緩和ケアを標榜している診療科です。特に手術では治せない患者さんにとっての長期間の化学療法は肉体的にも精神的にも楽なものではないため、治療に当たってはまず患者さんが何を求めるのかを明確にしたうえで、その方に合わせた適切な治療を提供していく必要があると考えます。そのため初めてお会いする患者さんにはお時間をいただいて十分な聞き取りを行い、一緒に治療方針を考えていくことを基本方針としています。

手術に持ち込めれば完治が望める患者さんに対してはその必要性をご説明したうえで、期間を絞って強力に治療を行うこともあります。当科は外科とも密接な関係があり、一緒にカンファレンスを行うなどして情報の共有や治療方針の相互確認を行いながら治療に当たっています。

当科の基本的な治療方針

当科で主に扱う消化器がん(大腸がん、胃がん、膵がん、食道がん、胆道がん、肝臓がんなど)では、治療の基本は手術や内視鏡治療を始めとした局所切除です。化学療法が進歩した現代においても、消化器がんにおいては化学療法だけで完治できる場合は極めて限られており、完治を狙う場合は積極的に手術を行う必要があります。

しかし、比較的病期が進行していて手術だけでは取り切れない可能性がある場合、あるいは目に見えるものは取り切ったけれど進行がんで再発が懸念される場合には補助的な治療が必要になります。化学療法はこのように術前、術後に補助的に行うことにより、完治の手伝いをする役割があります。例えば術前に化学療法を行うことにより、腫瘍を縮小させて切除範囲を小さくしたり、目に見えない微小な転移を消滅させたりといった効果が期待できます。術後に行う場合は、やはり目に見えない、手術で取り切れなかった微小な遺残した細胞をみえる大きさになる前に消滅させるという役割があります。術前、術後の化学療法は通常治療期間が決められており、その計画された期間にのみ投与を行います。残念ながら手術で取り切ることが不可能であると判断された場合、化学療法の目的はがんを制御して進行を抑えることであり、がんとの共存が目標になります。この場合は投与期間が定められておらず、病状がコントロールされている限り長期間にわたり治療を継続していくことが必要になります。そのためには持続可能な治療を、生活の質を保ちながら行っていくことが最も重要であると考えます。

治療の目標にあわせた治療方針

同じ化学療法、同じ薬剤の投与であっても、このような治療の目的により投与の仕方は異なります。術前の化学療法では縮小を目的とした強力な治療を短期間行うことになりますが、がんとの共存が目的の場合はこのような強力な治療を長期間続けることは体力的にも厳しく、日常生活を大幅に制限してしまうことになります。短距離走なら全力で走れますが、マラソンをいきなり全力疾走で開始する人はいないのと一緒です。

しかしながらこれらの治療は医療者自身も目的を明確に意識せずに行われることが往々にしてあり、必要な患者に十分な医療が行われなかったり、あるいは不必要な患者に過度な治療を行って生活をだいなしにしてしまったりするケースが多々見受けられます。化学療法に対する忍容性(どこまで治療に耐えられるか)は人によってことなり、目指す生活のスタイルや人生観によっても変わります。同じひとでも、治療を続けるうちに考えが変化してくるのも当たり前です。

抗がん剤の効果を生かすために

化学療法に使われる抗がん剤は基本的には用量に応じて効果が高くなります。つまり最大限の効果を得るためにはできるだけ多くの量を投与することが必要になりますが、その一方で副作用もその分強く出現するため、過量な投与は効果を副作用が上回り、場合によっては命にかかわる副作用を起こす可能性があります。一方で副作用を恐れ極端に少ない量で投与を行うことは、本来の薬剤の力を生かしきれず、本来得られるはずの効果を損ねる結果となります。そのため抗がん剤にはその組み合わせごとに適切な標準投与量が患者さんの体の大きさに合わせて設定されています。標準投与量は科学的に割り出された根拠のある数字ですが、その一方ですべての人にとって最適な分量というわけではありません。その方の体質によって副作用の強さは異なりますので、その方に応じて調整(減量)をしていく必要があります。効果をなるべく損ねずにどれだけ副作用をコントロールしながら薬剤量を調整できるかが、担当医の腕の見せ所というわけです。化学療法医には、外科医のような誰がみてもわかる技術の差というのは見えにくいですが、長く治療で付き合っていかなければならないからこそ、その理論と経験に基づいた調整力や、患者さんへの対応を含めた人間力は必要になります。