医療関係者の皆さまへ

腫瘍内科医になるには

腫瘍内科医とは

進行がんは依然として難攻不落の疾患ですが、その発生、増殖、転移のメカニズムが解明されるにつれ、進行を抑えるための薬物がどんどん開発されてきています。分子標的薬の開発、免疫チェックポイント阻害剤の開発はがん薬物療法にとって大きなブレイクスルーでした。しかしこれらの薬剤は、従来の殺細胞性抗癌剤とは全く異なる特有の有害事象(副作用)があり、それに対応するには薬剤の種類ごとに十分な理解と経験が必要です。従来、本邦においては固形癌の治療は外科医が中心になって行われることが多かったですが、これらの日々進化する薬物療法に対して外科医が手術の合間に対応していくのは不可能な時代になっています。腫瘍内科医とは、従来の臓器別診療ではなく、臓器横断的にがんに対する薬物療法を行う専門家です。現在、日本では欧米と比べて圧倒的に腫瘍内科医が不足しており、その育成が急務であります。

腫瘍内科医に求められること

薬物の効果を最大限に引き出し、その有害事象を最小限にとどめるために、常に新しい知見を吸収する努力と好奇心、それを患者に提供するためのコミュニケーション能力が必要とされます。現代の医学ではまだ薬物療法単独で完治できる方は多くないため、手術や放射線など複数の治療法を用いた集学的治療が行われます。また合併症をかかえる患者も多く、その治療についても専門家の判断が必要になることがあります。腫瘍内科医はその多数の専門家集団による治療の方向性を定め、治療を円滑に進めていくためのハブになる存在でもあります。そのためには他の医師やメディカルスタッフと共同作業を行っていくためのコミュニケーション能力は必須です。

また、完治が望めない患者さんに対して、最期まで満足してもらえる治療を提供するためには、薬物の知識もさることながら、患者の信頼を得て安心感を提供することが重要であり、そのためのコミュニケーション能力も必要とされます。早期からの緩和ケアが常識となっている現代医療においては、治療と並行して患者の苦痛を軽減するための緩和ケアの知識と熱意も必要とされます。

これらのコミュニケーション能力は、いわゆる一般社会における社交性や対話術のようなものとは別物と考えていいと思います。医師に必要なコミュニケーション能力とは誠実に相手の意見を聞き、必要な事項を相手に確実に伝えることであって、会話の上手さや人当たりの良さとは異なると考えています。

腫瘍内科に必要な資格

腫瘍内科医の目指す資格としては、日本臨床腫瘍学会(https://www.jsmo.or.jp/)の専門医制度「がん薬物療法専門医制度」が挙げられます。複数の臓器にまたがる治療経験と知識を必要とされ、その取得はかなりの時間と労力を必要とします。専門医制度の変革に伴い、薬物療法専門医も新制度に移行することが発表されており、2021年現在はその移行期になります。これから専門医の取得を目指す研修医の場合、その取得には日本専門医機構(https://jmsb.or.jp/)の定める基本領域学会(主に日本内科学会)の専門医の取得がまず必要です。その後に、日本臨床腫瘍学会認定の施設において、専門研修プログラムに登録したうえで、さらに複数領域(血液、呼吸器、消化器など)の症例を担当医として経験して、その治療経験をサマリにする必要があります。プログラムを修了しサマリが承認されたら、知識を問う筆記テストが行われます。(これらの制度は今後変更の可能性がありますので、学会ホームページ等で最新情報をご確認ください)。後期研修医を修了してからもさらに複数診療科にまたがって経験症例を重ねる必要があるため、各施設においてはそのための制度を準備する必要があり、当院でも整備を行っています。

日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会の3学会が中心となって設立された日本がん治療認定医機構(https://www.jbct.jp/)の定める「がん治療認定医」という制度もありますが、こちらは上記の専門医とは異なり、外科や一般内科などの医師も含めてより幅広い層を対象とした制度になります。

腫瘍内科医としてのやりがいとは

この領域では、患者さんを完治させることができないケースも多々あります。また外科医や内視鏡医のように手技の向上が目に見える形で出てくるわけではありません。そのようななかで、腫瘍内科医が何をモチベーションにしてキャリアを重ねていくかというのは重要なポイントかと思います。

ます最初の重要なポイントは、今後の医療における必要性の高さという点です。がん治療において外科手技による生存率や生存期間の延長はすでに頭打ちになっており、がん領域における外科手技の向上はすでにMinimun invasive surgeryの方針に舵をきっています。まだまだ進行がんの治療成績は満足のいくものではありませんが、これを向上させるためには薬物療法の進歩が必須です。その薬物療法を有効に安全に使用するためには薬物療法の専門家はますます必要になりますが、まだその数は少なく完全な売り手市場です。腫瘍内科医になることの社会的意義はとても大きいと考えられ、これが最大のやりがいになっています。

新しい治療法の開発も腫瘍内科のモチベーションの一つです。与えられた治療をそのまま行うだけではなく、新規薬剤の開発、新しい薬剤の組み合わせの開発や、有害事象を軽減するための新しい試みをみんなで一緒に行っていくことはとても重要です。単独の施設での研究や開発には症例数や資金の面での限界があるため、新しい治療開発のためには日本国内あるいは海外も含めた複数の施設が集まって、多施設共同臨床試験を行っていくことが重要であり、積極的にそのような試験を計画したり参加したりして新しい治療法を確立していくことは、患者さんに利益を与えられるのはもちろんですが、我々医師にとっても前に進む力になっていると感じています。

がんのメカニズムの解明や、薬物療法の効果を予測するためのバイオマーカーの開発などの研究もとても重要です。基礎研究と臨床の間の橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を行うことは、将来的な治療の進歩につながりますし、医師としてリサーチの仕方や分子生物学的な知識を学んでおくことは、治療内容の深い理解のためにも必要と思われます。リサーチで期待した結果が得られた時の喜びはまた日常臨床とは別の楽しさがあります。

当科への入局について

腫瘍内科医としての道に興味のある方は是非当科への入局をご検討ください。専門医の取得はもちろんのこと、腫瘍内科医としてのキャリア形成のために必要な臨床試験への参加、トランスレーショナルリサーチの実施、論文の作成、学位号の取得などを指導します。常勤だけでなく、子育てなどの家庭の事情による非常勤勤務や時短勤務にも対応します。ぜひ一緒に腫瘍内科医としてのキャリアをスタートさせましょう。