核医学治療
バセドウ病に対する放射性ヨウ素治療(アイソトープ治療)
バセドウ病に対する治療法として、薬物治療、手術療法、そしてアイソトープを用いた放射性ヨウ素治療がある。本邦においてアイソトープ治療は、薬物治療でコントロールが難渋される患者さんに行われる事が多いが、欧米では多くのバセドウ病患者が積極的に放射性ヨウ素治療を受けている。方法はとても簡便で、市販の感冒薬程度の大きさのカプセルを内服して頂くだけである。手術と異なり患者さんへの負担も少ない。使用する核種はヨウ素131で主に甲状腺にほとんどが取り込まれる。ベータ線を放出するが飛程距離が数mm程度と非常に短く、周囲の人への影響が少ない。治療を受けた多くの患者さんは将来的に甲状腺機能低下症に至り、ホルモン剤(チラーヂン)内服による加療が生涯必要になる。しかし、メルカゾールなどによる薬物治療と異なり、チラーヂンによる副作用は見られず、その調節は極めて容易で半年から1年程度で可能である。治療時には甲状腺への照射を効率よく行うため1~2週間のヨウ素制限などの準備が必要となる。また本治療は外来での治療が可能だが当院内分泌内科に入院して加療する場合もある。
残存甲状腺破壊を目的とした放射性ヨウ素によるアブレーション
甲状腺癌は悪性新生物の中でも比較的予後が良好とされているが、甲状腺全摘をした場合でも気管との間にわずかに組織が残ることがある。この残存組織をアイソトープ治療で破壊(アブレーション)すれば、再発防止や予後改善に有効であると考えられており、欧米では積極的に行われている。本邦でも2010年より遠隔転移を伴わない甲状腺癌全摘症例に対して外来治療可能な放射活性(30mCi)で治療を行っている。治療そのものはバセドウ病に対するヨウ素治療とほぼ同じでヨウ素制限食の準備の上、カプセル状の放射性ヨウ素を内服して頂き数日後に撮像を行うだけである。これまでアブレーションのために必要なチラーヂンの一時休薬による甲状腺機能低下症が問題視されていたが、近年は甲状腺癌診断補助薬であるヒトチロトロピン アルファ(商品名 タイロゲン)が保険適応となり機能低下症を回避することが可能となっている。
ルタテラ治療
177Lu-DOTATATEを用いたペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)であり、本邦では2021年8月にソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍を適応症として製造販売承認された。
当院では2022年12月より導入し、神経内分泌腫瘍症例を対象に積極的に治療を施行している。事前にインジウム111標識ペンテトレオチドを用いたソマトスタチン受容体シンチグラフィーを行い、治療適応の有無を判定する。治療は経静脈的に投与され、少なくとも数日の特別措置病室への入院を要する。177Luから放出されるβ線により標的病変への抗腫瘍効果が得られるが、177Luはγ線も放出するため治療部位への薬剤集積の画像化が可能であり、当院では治療翌日にシンチグラフィー(SPECT/CT)の撮像を行っている。
ラジウム(ゾーフィゴ)治療
去勢抵抗性前立腺癌の骨転移に対する治療で, 骨転移による疼痛緩和のみならず症候性骨関連事象(痛みの再増悪や病的骨折など)の発現を遅らせたり, 生存率を向上させたりする効果がある。
アルファ線治療薬としてはじめて認可されたラジウム-223は、カルシウムと同様の機序により骨転移病巣に集まる。アルファ線は単位長さ当たりに与えるエネルギー(線エネルギー付与, LET)が高く, 組織を障害する効果(生物学的効果比, RBE)が高い。また、ベータ線よりもさらに 飛程が短く副作用として骨髄抑制が起こりにくいのが特徴である。
治療は経静脈的投与にて行われるが、通常4週間ごと最大6回まで施行される。他施設共同試験では、 全生存期間の中央値がプラセボ群11.3ヶ月であったのに対し, ラジウム-223投与群では14.9ヶ月と有意に延長したとされている。