コラム

気になるめまい

2010.09.01

耳鼻咽喉科 非常勤講師 岡村 玲子

内耳の構造と働き

 耳の奥にある内耳には『音を聞く』=『聴覚』と『体の平衡を保つ』=『平衡感覚』の2つの働きがあります。聴覚をつかさどるのは『蝸牛』であり、平衡感覚を担うのが『前庭』と『半規管』という器官です。蝸牛と前庭と半規管はつながっていて、外側を骨で囲まれた部分を骨迷路、内側の膜性組織で包まれた部分を膜迷路といい、二重構造になっています。膜迷路の内部には内リンパ液、外側の骨迷路との間には外リンパ液で満たされています。このリンパ液が、音の振動や体の動きにより流れを生じ、感覚細胞がそれを感じ取り信号となって脳に伝わり、脳は音を感じたり、体の平衡を保つように全身に指令を発しています。

 平衡感覚に重要な内耳の異常は、めまいを起こすもっとも多い原因になります。急な回転性めまいの原因のほとんどは内耳性めまいによることが多く、そして内耳性めまいは解剖学的にも耳鳴や難聴のような蝸牛症状をめまいに伴うことが多いのです。メニエール病は、耳鳴、難聴、耳閉感と同時に回転性めまいが起きる代表的な内耳疾患です。

(めまいの話:北原正章著より引用)

もっとも多いめまいとは

 さてメニエール病はとても有名な疾患ですが、実はめまいを起こす内耳疾患でいちばん多いのは良性発作性頭位めまい症(Benign paroxysmal positional vertigo : BPPV)です。この病気は半規管内にリンパの流れを乱すものが生じた結果起こると考えられています。
 半規管のリンパの流れを乱すものの正体は、隣に位置する前庭の中にある平衡斑の『耳石』と言われています。本来、耳石は1つ1~5ミクロンほどの炭酸カルシウムの結晶です。多数の耳石は耳石膜の上に存在しており、水平、垂直方向の体の運動の際、耳石膜と耳石がずれる刺激を感覚細胞が感知し、体の直線方向の加速度(速さの変化)や重力を感じ取っています。
 この耳石がはがれ落ちてある程度の大きさに固まったものが、半規管に迷入してきた際にリンパ液の異常な流れの乱れを起こしたり、半規管内の感覚細胞を直接刺激することによって、普段では起こらない頭位や頭の動きでめまいを起こすわけです。

BPPVの症状

 起き上がる、姿勢を変える、寝返りのような動作をきっかけに、突然起こる回転性めまいを感じます。めまいを起こしやすい決まった頭位があります。めまいはじっとしていれば、数秒から数十秒で(多くは1分以内)自然におさまることが多いですが、ひどいときは吐き気を感じます。意識をなくすことはありません。また耳鳴、難聴は随伴しません。じっとしていてめまいが起こることはありません。めまいは1週間程度で自然に軽快、消失します。症例によっては2~3週間、数ヶ月におよぶことがあります。再発は少ないですが、繰り返し反復することがあります。

BPPVの治療

 めまいや吐き気の症状の程度にあわせて、抗めまい薬、循環改善剤、制吐剤、抗不安薬を内服します。時間とともに自然に軽快することが多いので内服なしで治ってしまうことも多いです。
 また、めまいに軽快傾向がみられる時点から、積極的にめまいが起きる姿勢を繰り返す運動療法を指導します。これは半規管内の浮遊耳石を粉砕、融解を促し、半規管から追い出す効果があります。また、長期にめまいが続く場合は半規管に入り込んだ浮遊耳石を取り出す理学療法も効果的な治療です。

BPPV と生活習慣

 BPPVは、女性の方が男性よりも多く認められる疾患で、50~70歳代が好発年齢とされ、その発症には女性ホルモンをはじめとする性ホルモンの低下や閉経後骨粗鬆症との関連性が指摘されています。また、手術後の安静後、長期臥床後に発症しやすく、横になってテレビを観る、睡眠時の低い頭位や右下や左下の一定姿勢、長時間の前屈作業などの生活習慣との関連性が挙げられています。カルシウムの多い食事、適度な運動はめまいを起こしにくくする体作りにはとても必要と言えるでしょう。

BPPVと似ているめまい

 BPPVの診断がつけば予後の良い疾患ですので心配はいりませんが、似ためまいを起こす疾患に頚性めまいと中枢性頭位めまいがあります。頚性めまいは、内耳や脳に血液の供給をしている頸椎の間を走行する血管や神経が、動脈硬化や頸椎の変形で頚を廻した時に圧迫されてめまいが起こる病態です。また、小脳疾患でも同様の頭位性めまいをきたすことがありますので、自己判断をせずに必ず耳鼻科の診察を受けましょう。