心房細動と脳梗塞
2012.10.01循環器内科 医師 藤田 悦子
心房細動は、60歳をこえると急に増え始め、70歳代で5%前後、80歳代では10%前後にみられる不整脈です。
小渕恵三元首相や、長嶋茂雄元巨人軍監督もかかっていたことで、近年、有名になってきました。
心臓は上下左右4つの部屋に分かれた筋肉のポンプであり、上の部屋を心房、下の部屋を心室といいます。心房は肺や全身から帰ってきた血液を受け取って心室に送り込み、心室は全身や肺に血液を送り出します。通常は、右の心房にある洞結節という自前のペースメーカー細胞からの電気信号によって、1分間に50-100回の早さで規則正しく動いています。(図1)
しかし、心房細動になると、心房のあちこちから、1分間に400回以上もの速さの、全く不規則な信号が出るようになります。そうなると、心房は効果的に動けなくなり、ただ震えているだけの状態になってしまいます。400回の信号の全てが心室に伝わるわけではなく、その人の状態によって、心室は1分間に50-200回前後の速さで動きます。(図2)
全身に血液を送るという一番大事な働きをしている心室の問題ではないので、心房細動そのもので死亡することはありませんが、大きく分けて三つのことが問題になります。
一つ目の問題は、心不全です。たいていの場合、心拍数が速くなりすぎたことで心臓に負担がかかり、長く続けば心臓の動きが悪くなることもあります。このように血液を送るポンプとしての機能が悪くなると、むくみや息切れが出てきたりします。
二つ目の問題が、脈が乱れるための動悸の症状です。これは、全く感じない人から、痛みとして感じる人まで、人によって様々です。
最後のそして最大と言ってもいいかもしれない問題が、脳梗塞が増えることです。血液はスムーズに流れていれば固まることはありませんが、うまく流れずに淀むと、体の中でも固まってしまいます。この血の塊を「血栓」といいます。心房細動では、心房が震えてうまく動かなくなることで、中に血液の淀みができ、「血栓」ができやすくなります。
「血栓」が心臓から移動して、脳の血管に詰まってしまうと、脳梗塞を起こします。
心房細動の人は、脳梗塞を起こす可能性が、正常の脈の人の約5倍に増えると言われています。脳梗塞の約三分の一は、心房細動が原因であるとも言われており、かつ、心房細動が原因の脳梗塞は、動脈硬化によってできた脳梗塞よりも梗塞の範囲が大きく、症状や後遺症が重くなる確率が高いのです。
また、高血圧や糖尿病があったり、年齢が75歳以上である場合などは、より脳梗塞の危険が高まります。(表)
しかし、自覚症状を全く感じないこともあるため、心房細動が起きていても気付かないことも多く、健康診断などで初めて発見されるということもしばしばあります。
うっかり放置してしまうと、その後の生活に重大な結果をもたらしかねません。
では、治療はどうしたらいいのでしょうか?
心房細動の治療の目的は、心不全や脳梗塞を予防し、動悸などの自覚症状を軽減することです。主に3つに分類されます。
一番目は、脳梗塞を予防するための抗血栓療法です。薬で、血液を固まりにくくします。
ワーファリンという薬が有名ですが、最近、別の新しい薬も開発されました。
二番目は、心拍数調節療法(レートコントロール)です。心拍数が多すぎる時に、薬で心房から心室に信号が伝わる程度を調節して、心拍数を適切な速さまで減少させます。
三番目は洞調律維持療法(リズムコントロール)です。薬などによって心房細動を止めて正常の脈に戻したり、心房細動になるのを予防したりする治療です。電気ショックで心房細動を止めることもあります。また、細い管(カテーテル)を心臓の中に入れて治療する治療法(カテーテルアブレーション)もあります。
洞調律維持療法が、最も良いように思われるかもしれません。しかし、心房細動の予防に必ずよく効くという薬がありません。カテーテルアブレーションも、それほど良い成績を上げていません。
ですから、まず抗血栓療法と、必要があれば心拍数調節療法を行い、その上でも症状が辛いとか心不全が悪化するなど、どうしても洞調律の維持が必要な時に、洞調律維持療法を追加する、というのが現在のところは一般的です。
今後、洞調律維持療法が進歩すれば、治療方針は大きく変わる可能性はあります。
治療の実際は、個々の方の状態によって、もう少し細かくわかれます。
心房細動は、加齢、高血圧、心臓弁膜症、心筋症、甲状腺疾患、などのために、心房の筋肉に、長年負担がかかって起きると考えられています。これらの疾患があれば、一緒に治療を行うことが必要ですが、はっきりとした原因がわからないことも多いです。
特に原因となる病気がなくても、心房細動を起こす誘因として、飲酒?喫煙?ストレス?過労?寝不足?脱水などが知られており、これらは避ける必要があります。
心房細動は適切な治療を行っていれば、強い症状や大きな問題を起こすことなく、日常生活を送れる病気です。適切な治療を選ぶためには、心房細動の原因を探り、現状を評価するための検査も必要です。
もし、健診などで心房細動を指摘されたけれど、まだ治療をしていないというようなことがあれば、ぜひ専門外来(循環器内科)を受診してご相談ください。
(図1)
(図2)
(表)
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