神経が圧迫されておきる腰部脊柱管狭窄症
2012.09.01整形外科 准教授 村田 泰章
排尿障害がおこることも
人は年をとると椎間板が変性し、椎間板の変性により生じた不安定性(背骨のぐらぐら)を食い止めようとして、黄色靭帯(おうしょくじんたい)が分厚くなります。それによって神経の通り道が狭められるために、中を通っている神経が圧迫されて腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)という病気になります。後ろからは分厚くなった黄色靭帯、前からは変性して突出した椎間板に押されているケースが多くみられます。なかには、すべり症により腰椎がずれて脊柱管が狭くなっている人もいますし、変性側弯症により脊柱管外の椎間孔という部分で狭窄している人もいます。
この病気の症状には、休み休みでないと続けて歩けない間欠跛行(かんけつはこう)や下肢の痛みのほか、排尿障害がおこることもあります。夜寝てから何回もトイレに起きる人や、最近トイレで尿の出る勢いが弱くなったと感じている人の中には、腰部脊柱管狭窄症が原因となっている場合もあります。東京女子医科大学整形外科では泌尿器科との連携により、排尿障害の原因を詳しく調べることができるようになりました。男性の排尿障害の場合は、まず前立腺肥大や前立腺がんが疑われますが、泌尿器科で原因不明とされていた排尿障害が、実は腰部脊柱管狭窄症が原因だったということがあるのです。
腰痛体操で筋肉を衰えさせないように
治療の基本はPGE1製剤の内服
背骨の不安定性が生じると、脊柱管の狭窄へ進んでしまいます。日頃から「腰痛体操」を取り入れるなどして、腰を支える筋肉を衰えさせないこと、腰の周りの筋肉をよくストレッチすることが大事です。また、下肢の痛みがあるときは、体を少し丸めて歩くと痛みが和らぎます。これは、背中を丸くすることにより黄色靭帯が伸ばされて薄くなり脊柱管の狭窄の度合いが緩和されるからです。スーパーでカートを押すと歩きやすいと感じている人もいるのではないでしょうか。
しかし、下肢痛やしびれをあまり我慢しないでください。ひどくならないうちに、まず近所の整形外科を受診しましょう。軽度から中等度の状態なら、血流をよくするプロスタグランジンE1(PGE1)製剤の投与や、ブロック注射などの保存療法を続けるだけで、ずいぶん症状は改善されます。
腰部脊柱管狭窄症の治療法は、その人の症状や生活スタイルに合わせて、治療方法を組み合わせるオーダーメードが必要です。
連続歩行が可能な距離が100mを切ったら重症
適切な手術で下肢痛と間欠跛行は改善する
近くの整形外科で保存療法を続けてもあまり改善が見られない人が、紹介状を持って外来に訪れるケースがほとんどなので、東京女子医科大学整形外科での治療はおもに手術になります。脊椎手術の中では、腰部脊柱管狭窄症の術例が約7割を占めているほど、この病気で困っている患者さんの数も増えているといえます。
先に述べた排尿障害は、馬尾(ばび)障害(脊柱管全体が狭くなって脊髄からつながる神経が圧迫される)が進むと出てくるのですが、これは手術をしても回復しにくい症状です。手術で比較的改善するのは、下肢痛と間欠跛行。このことを患者さんによく理解してもらい、どのくらい困っているか、治療によりどのくらい生活しやすくするかをよく検討して手術するかどうかを決めています。
一般的には、間欠跛行で100mを切る距離しか続けて歩けなくなると重症と判断し、手術を検討します。もっと活動的に動きたいとか、たとえば糖尿病の治療のために毎日歩かなければならない人などは、200~300m歩ける状態でも、早めに手術をする場合があります。
手術の方法はずいぶん進歩しています。複数の椎間が狭窄していれば従来通り切開して手術を行いますが、狭窄が1カ所なら内視鏡による手術を行います。神経の圧迫を取り除くだけなら「椎弓切除術」や「拡大開窓術」、不安定性があり固定が必要なら「腰椎後側方固定術」や「椎体間固定術」というように、手術も、その人に合った方法を選び、組み合わせることになります。大事なのは、医師と十分に相談をして話し合いながら治療を勧めていくことです。
平成24年9月から東京女子医大成人医学センターでも月1回、脊椎専門医による整形外科外来を予約制で行うことになりました。頚椎、胸椎、腰椎の疾患により、近所の整形外科で保存療法をしたけど、まだ生活に支障のあるというかたは、是非一度予約を取って受診してみてください。
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