コラム

糖尿病を予防しよう!

2009.12.01

准教授 宇治原典子

 糖尿病患者さんの数は世界中で増え続けています。日本では、厚生労働省が国民健康栄養調査の一環として糖尿病実態調査を施行していますが、それによると、2007年の調査で糖尿病が強く疑われる人は890万人、糖尿病の可能性が否定できない人が1320万人とあわせて2210万人と推定されています。これは、5年前の2002年に比べ、糖尿病が強く疑われる人は150万人、糖尿病の可能性が否定できない人が440万人増加しています。

 歴史上糖尿病に関する最も古い記載は紀元前1500年ころのエジプトのPapyrus Ebersであるといわれています。尿がたくさん出て死んでしまう病気として記載されています。そして、2世紀頃カッパドキアのAretaeusがこの病気について詳しく記録しており、「不思議な病気で患者は尿をつくることを寸時もやめず、筋肉や手足が尿に溶け出してしまう。」と言う意味のことを記載しています。そこから、ギリシャではこの病気にサイフォンという意味のdiabetesという名前をあてたといわれています。その後、17~18世紀になり、この病気の患者の尿が甘いことに気付かれてからは、さらに、蜜のように甘いという意味のmellitusをつけ、diabetes mellitusとよぶようになり、現在もこれが病名として使われています。
 日本では平安時代に摂政関白であった藤原道長が歴史上記録のある最古の糖尿病患者として知られています。自身が著した「御堂関白日記」や、当時の右大臣小野宮実資の日記「小右記」に、多飲多尿?口渇?視力障害など糖尿病特有の症状が記されています。
 1800年以前の糖尿病の治療は、尿中に失われた栄養を補うため、過食療法が行われていました。しかし、1870年普仏戦争が起こり、食物に困窮したフランスで糖尿病患者の尿から糖が減り、症状が改善したことに気付いたBouchardatが食事制限療法をはじめました。1889年にMering とMinkowskiが膵臓の摘出によって犬が糖尿病になることを見出し、1921年にBantingとBestが犬の膵臓から血糖を低下させる物質の抽出に成功し、これをインスリンと名づけました。このときから糖尿病の治療の新しい時代がはじまったといえます。

 糖尿病は初期には全く症状がありません。上記の歴史的書物に書かれた、多量の尿やのどの渇き、視力障害や疲れやすさなど糖尿病の症状といわれているものは糖尿病がある程度進行しないとあらわれません。症状がなくても糖尿病ははじまっているのです。
 糖尿病をみつける手段は血液検査しかありません。そこで有効なのが、健康診断です。会社や自治体での健診で糖尿病の疑いあるいは、糖尿病といわれたときは、たとえ、何も症状がなく、元気でも必ず精密検査をうけましょう。空腹時血糖が110mg/dl以上の場合は境界型または、糖尿病が疑われます。126mg/dl以上の場合は糖尿病が疑われますので、医療機関を受診し、ブドウ糖負荷試験を受けましょう。また、食後にはかった血糖値が200mg/dl以上の場合も糖尿病が疑われます。
 糖尿病は進行すると全身にさまざまな合併症をおこします。全身の太い血管(大血管)に起こってくる動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞を起こします。網膜の血管や腎臓など全身の細い血管(細小血管)に起こる変化は糖尿病性網膜症による失明や糖尿病性腎症による腎不全などを引き起こします。いずれも最初のうちは症状がありませんが、からだの中で静かに進行していくのです。細小血管の障害(糖尿病網膜症や腎症など)は血糖値のコントロールと関連が強く、血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1cが6.5~7.0%以上で進行します。大血管障害(動脈硬化)はもっと血糖値の低い境界型の時代から進行しはじめることがわかっています。できるだけ早く糖尿病を見つけ、コントロールすることにより、さまざまな合併症を予防できます。また、合併症の発症、悪化には血糖値だけでなく、血圧やコレステロール、中性脂肪(トリグリ)の値?喫煙も影響を与えます。
 糖尿病は食事、運動などの生活習慣の乱れにより発症、進行することが知られています。将来、心筋梗塞や脳梗塞、失明や腎不全などにならないために、生活習慣をみなおし、食事のカロリーの摂り過ぎやアルコールの飲みすぎに注意し、禁煙、定期的な運動を心がけましょう。