医食同源-わかりやすい食の科学-
2010.07.01健康管理科 准講師 坂井理映子
現在の日本人の平均寿命は男性79歳、女性86歳です。平均寿命は健康状態を示すひとつの指標で、日本は先進国の中で戦後は最下位でした。その後、感染症が激減したことにより日本人の寿命は急速に伸び、昭和59年より世界一の健康水準を維持しています。しかしその一方で、がんや循環器病などの「生活習慣病」が増加しています。平成19年の日本での死因別死亡数をみると、第1位はがん、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患で、上位3疾患が死亡原因の半数以上を占めています。これら3大死因は生活習慣との関わりが強く、生活習慣の改善で予防することができます。もし3大死因を克服できた場合、平均寿命は男性で約8年、女性で約7年延長するといわれています。
そこで今回は、生活習慣なかでも食習慣、特に「塩」について健康を維持するために必要な知識をご紹介したいと思います。
塩のはなし
日本語には「いい塩梅」や「手塩に掛ける」など塩にまつわる言い回しが沢山あります。海に囲まれた日本では、塩は簡単に手に入りそうに思われますが、湿度の高い日本で海水中に含まれる3%の塩分を抽出するのは手間ひまがかかる作業だそうです。
なぜ人は塩をとるのでしょうか?
数百万年前の人類は、他の動物と同じように塩の摂取量が少なく1日に0.25g以下だったようです。ところが約5000年前、中国で食物の長期保存に塩を使う方法が始まり、塩の摂取量が増加したと考えられています。文明が進化し、冷蔵庫での貯蔵が主流となった現在でも、加工食品に多くの塩が含まれています。
塩の役割
塩はナトリウムイオンからできています。ナトリウムは人の体液の主要なイオンで、細胞外液量を維持し、浸透圧や酸?塩基平衡の調節に重要な役割を果たしています。口から摂取されたナトリウムは小腸で吸収され、主に腎臓から排出されますが、体内で過不足がないように再吸収されます。つまり、腎臓の機能が正常な人が普通の生活を送っている場合、ナトリウムが欠乏することはありません。このため塩を取りすぎると、体の様々な機能に不具合がでてきます。
塩が健康におよぼす影響
1950年代、日本は脳卒中による死亡者が最も多い国のひとつでした。特に東北地方では塩の摂取量が多く、1日に18gも摂取されていましたが、減塩キャンペーンにより塩摂取量が14gに減少し、脳卒中による死亡が80%も減ったそうです。
塩は直接あるいは間接的に私たちの体に影響をおよぼすことが報告されています(表)。塩が健康におよぼす最大の影響は血圧の上昇です。肥満や運動不足などよりも密接な関係があり、塩の摂取量が多いと加齢とともに血圧が上昇しやすいことが知られています。また、高血圧は脳卒中や心筋梗塞などの心疾患の原因となるため、減塩することでこれらの病気を予防することができます。ある試算では、1日の塩の摂取量が6gになると、脳卒中が24%、心疾患が18%減り、世界全体でこれらの病気による死亡者が1年間に250万人も減ると報告されています。
表:塩の過剰摂取が健康におよぼす影響 |
高血圧 |
脳卒中 |
心筋梗塞や狭心症、心不全の悪化、心肥大 |
むくみ、肥満 |
ピロリ菌感染、胃がん |
たんぱく尿、慢性腎臓病 |
骨そしょう症、腎結石 |
気管支喘息の重症化 |
適切な塩の摂取量
では、塩の摂取量をどこまで減らせばよいのでしょうか?
血圧を上昇させない塩の摂取量は1日に3-5gと考えられているので、世界保健機構(WHO)では成人の塩の摂取量上限を1日5gとし、各国に減塩を働きかけています。日本高血圧学会でも6g未満をすすめていますが、先進国の中でも塩の摂取量が多い日本では、成人男性で1日12g、成人女性で10gを摂取しています。そこで厚生労働省は、「日本人の食事摂取基準」のなかで、塩の摂取量を成人男性は9.0g未満、成人女性は7.5g未満を今後5年間の目標としました。この目標を達成するためには、皆さんが減塩に積極的に取り組むことが必要です。
食品に含まれる塩分量は、食品表示から簡単に計算できます。まずはご自分の摂取している塩の量を確かめてみましょう。塩の摂取量が多い方は、「減塩のコツ」を参考に、減塩を始めてみましょう。すでに病気がある方は、目標とする減塩の値が異なります。かかりつけ医師に確認しましょう。
食塩相当量の計算式 |
食塩相当量(g)=ナトリウム(mg)÷1000×2.54 |
減塩のコツ
塩は何に多く含まれているのでしょうか?
効果的に減塩するためには、ご自分が何から塩を摂取しているかを見極める必要があります。イギリスで行われた試算によると、私たちが摂取している塩の80%は加工食品やレストランなどでの外食に含まれているそうです。つまり、1日10gの塩を摂取している人の場合、8gを加工食品などから摂取していることになります。加工食品に関しては、特に子供の過剰な塩分摂取が危惧されおり、大人の体重に換算すると15~20gもの食塩に相当するという報告があるほどです。これらの食品を多く利用される方は、食品表示で塩分量を確認しましょう。
また、家庭での調理などでも、塩摂取量の15%程度が使用されています。味の基本は4つの味、塩、甘、酸、苦ですが、ほとんどの食べ物の味は、そこに含まれる遊離アミノ酸とうまみ物質と塩で決まります。適量の塩は遊離アミノ酸とうまみ物質に対する反応を増幅させるので、ついつい塩を足してしまいがちです。塩味は人によって好みがありますが、それは慣れによるものです。1~2カ月の減塩で塩味特有の受容体の感受性が増し、その後は少量の塩味でも満足できるようになります。慣れるまで、がんばりましょう。
減塩のコツ |
1.調理のコツ:できるだけ塩を使わない。 |
① 新鮮な素材の本来の味を活かす。 ② 塩は最後に:少量の塩を食べ物の表面にパッと振りかけると塩味が引き立ちます。 ③ レモンや酢などの酸味を加える。 ④ カレーやトウガラシなどの香辛料を加える。 ⑤ 紫蘇やハーブなどの香りのある野菜を使う。 ⑥ 焼き物にしたり、炒った胡麻や胡桃などをくわえて香ばしさをたす。 ⑦ 天然だしを使う:固形や顆粒のだしは塩分量が多いので、確かめましょう。 |
2.食べ方のコツ:薄味になれる。 |
① 加工食品は塩分量の多いものがあります。塩分量を確認しましょう。 かまぼこ、はんぺんなどの練り製品 ハム、ベーコンなどの肉の加工食品 ② 漬物?汁物の量を減らす:漬物は浅漬け?汁物は具沢山にし?麺類の汁は残しましょう。 ③ つけて食べる:しょうゆやソースはつけて食べる方が、量が少なくてすみます。 ④ 酒の肴に合う料理は塩分が多いので、食べ過ぎに注意しましょう。 ⑤ 早食い、食べ過ぎに注意しましょう。 |
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