コラム

PSAって何? 前立腺癌検診について

2011.07.01

泌尿器科 講師 小林 裕

 前立腺癌は50歳以上の中高年男性に好発する癌で、近年わが国でも男性の癌のうち年齢調整罹患は第6位、癌死亡数でも第7位を占めており、2020年には罹患数は第2位に(肺癌に次いで)、死亡率は現在の2.8倍になると予想されています。前立腺癌の危険因子として、食生活、加齢、人種差や遺伝的な要因が関与していると言われています。動物性脂肪摂取過多(西洋風な食事様式)、また遺伝的要因として、第1度近親者(親、兄弟、子)に一人の前立腺癌患者がいた場合、当事者の前立腺癌罹患危険率は2倍になり、2人の場合5倍、3人の場合11倍になると報告されております。
 前立腺癌の特徴的な初期の症状はないため、早期に前立腺癌を発見し治療を受けることが重要です。
 前立腺癌を早期に診断するためには、
①前立腺の直腸診(直腸から指を入れて前立腺に異常がないかを診察する)
②血清PSAの測定をする
 まずこの2点がスクリーニングとして行われる検査です。

 PSAって何?
 PSAは日本語で前立腺特異抗原と呼ばれるもので、前立腺上皮より分泌される糖蛋白であり、この物質は前立腺という臓器に特異性が高いマーカーです。ただし、癌という疾患にのみ特異的ではない為、様々な良性疾患でも上昇することがあります。例えば、PSA値は前立腺の重量と相関するため、前立腺肥大症のある方、尿路感染症のある場合、加齢、前立腺触診後、射精直後などに上昇すると言われています。現在日本でのPSA値の正常値は4.0ng/mlになっておりますが、4.0以下でも前立腺癌がないとは言えません。ですから、PSA値が4.0ng/ml以下であっても、直腸診で異常所見がある場合などでは、精密検査が必要になることもあります。
 PSA値と前立腺癌検出率は一般的に、PSA値4.0~10.0ng/mlで25~30%、
 10.0~20.0ng/mlで約50%と言われています。PSA値が高い、直腸診で異常がある場合、さらなる精密検査が必要になります。
 では更なる精密検査とはどのような検査でしょうか。

①前立腺のMRIによる検査(画像的に前立腺内を観察する検査)
②経直腸的前立腺超音波検査
③前立腺針生検検査(直腸か会陰部より前立腺に針を刺し前立腺の組織を採取し、
 顕微鏡的に癌があるかどうかを調べる検査)が必要になります

 前立腺針生検検査は外来(条件はありますが)、または1~2泊程度(ワーファリンなどの抗凝固剤を内服されている場合は更に長期入院が必要となります)で行っております。検査時間も30分前後で麻酔(様々な程度の麻酔方法があります)も行います。

 前立腺針生検は、あくまで前立腺内から8~12か所の部位より組織を採取する方法(サンプリング的)のため1回目の生検で約20~30%の癌は見逃される可能性があります。その為初回の生検で癌がなかった場合も、その後注意深くPSA値などで経過観察が必要となり、再度PSA値が上昇した場合再び生検が必要となります。

一般的に前立腺癌検診の結果
PSA値が1.0ng/ml以下の人は3年毎の検診
PSA値が1.1~4.0ng/mlの人は毎年の検診
を日本泌尿器科学会では推奨しております。
「50歳を超えたら一度前立腺癌の検診をお受け頂くことが大切であること。」
このことをコラムの結びとさせて頂きます。