認知症の予防
2013.07.30神経内科 講師 松村美由起
先週、ボストンで行われたアルツハイマー病の国際学会に参加してきました。今月のコラムがこんなに遅くなったのも、この学会でのトピックスを持ち帰ろうと考えていたからです。昨年はアミロイドβに対するワクチン療法に関する発表がなされるのではないかとの期待が高まりましたが、実際には有効性に乏しいため薬剤の開発を断念するという残念な結果となりました。本年度は、そういった大きな目玉はなかったものの、アミロイドβの他にアルツハイマー病患者さんの脳内に異常をもたらすタウ蛋白に対する治療の研究成果も報告され、治療の新たな道筋が示された学会でした。
しかし、残念ながら未だ根本治療の決め手がない現在、予防にも注目が集まります。最近、フランスから予防に関する論文が発表されました。以前から高血圧や糖尿病、脂質異常症など動脈硬化を引き起こす因子と認知症との関連性は示唆されていましたが、こうした因子をコントロールすることにより認知症を予防できるかという研究です。こうした危険因子は認知症の原因ではありませんが、これらがあることにより認知症の発症率が高まることは既に報告されています。この論文は、フランスの人口動態予測を基に、将来の認知症患者さんの有病率(集団における患者さんの割合)を推計し、上記の危険因子の公衆衛生介入により認知症の有病率を減少させられるかを検討しています。その結果、高血圧の有病率を低下させる治療により認知症の有病率と死亡率を減少させられるとの予測値が算出されました。これはあくまでも計算上の予測ですが、危険因子と認知症の発症リスクとの関連性に関するこれまでの報告とあわせて考えると、高血圧、糖尿病、脂質異常症をしっかり治療することは今できる認知症予防の重要な対策の一つではないでしょうか。
今できることに手を付けてみませんか?少しでも家族と笑顔で生活できるように。
神経内科ではもの忘れ外来、もの忘れドックをはじめ、通常の神経内科外来でもこうした観点から動脈硬化予防と治療にも力を注いでいます。もの忘れの事だけでなく、こうしたご心配に関してもどうぞお気軽にご相談下さい。
JAADより引用
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